股関節はがしについて

股関節はがしプログラムのご案内:動きの土台を取り戻し、全身の不調を改善する

1. 患者様への導入説明:股関節の重要性と「はがし」の必要性

1-1. 身体の「要(かなめ)」としての股関節

股関節は、上半身と下半身をつなぐ、身体の「要(かなめ)」となる関節です。大腿骨の先端が骨盤のくぼみ(寛骨臼)にはまり込む、非常に安定していながら、同時に大きな可動域を持つ球関節です。the human hip joint anatomyの画像

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  • 役割の多さ:
    • 体重の支持: 立っている時、歩いている時、座っている時、常に上半身の重さを支え、地面からの衝撃を吸収しています。
    • 動きの始点: 歩く、走る、座る、階段を上るなど、日常生活のあらゆる動作の始点であり、土台となります。
    • 姿勢のコントロール: 骨盤と連動し、背骨のS字カーブ(姿勢)をコントロールする重要な役割を担っています。

この重要な関節の動きが悪くなると、連鎖的に全身のバランスが崩れ、様々な不調を引き起こします。

1-2. 「股関節が固まる」とは?

股関節が固まるとは、単に「柔軟性がない」ということではありません。当院が対象とする**「固まり」**とは、以下の組織の機能不全を指します。

  1. 筋膜の固着(癒着): 筋肉を包む「筋膜」が、長時間の不良姿勢や酷使によって隣接する筋肉や関節包とくっつき(癒着し)、筋肉本来の滑らかな動きを阻害している状態です。
  2. 関節包・靭帯の制限: 関節を包む袋(関節包)や、関節を補強する靭帯が硬くなり、関節の動きに「ブレーキ」をかけている状態です。
  3. 深層筋の機能低下と短縮: 股関節の奥深くにあるインナーマッスル(腸腰筋、深層外旋六筋など)が短縮・硬直したり、逆に弱くなったりして、関節を正しい位置で安定させる機能が失われている状態です。

これらが複雑に絡み合った結果、股関節は本来持つべき可動域を失い、「固まった」状態になります。

1-3. 「股関節はがし」の目的と効果

当院の「股関節はがし」は、これらの固着・制限を丁寧に解放し、股関節を「滑らかに動く土台」に戻すことを目的とした施術プログラムです。

目的具体的な効果(患者様メリット)
可動域の回復動きの制限が改善し、深くしゃがめる、足が開く、可動域が広がり運動パフォーマンスが向上する。
痛みの軽減股関節、膝、腰にかかっていた過剰な負担が軽減し、慢性的な腰痛や膝痛が和らぐ。
姿勢の改善骨盤がニュートラルな位置に戻りやすくなり、反り腰や猫背など全身の姿勢が改善する。
血流の促進股関節周りの大きな血管やリンパの流れがスムーズになり、冷え性やむくみの改善に繋がる。
インナーマッスルの再活性化固着が取れたことで、サボっていた深層の筋肉が働きやすくなり、安定性が増す。

「はがし」という表現は、固く癒着した組織をリリースし、関節本来の動きを再獲得するという、解放のイメージを強調しています。


2. 施術プロセス:股関節の固着を段階的に解放する

当院の「股関節はがし」は、安全かつ効果的に関節の可動域と機能を回復させるため、以下の段階的なプロセスで進められます。

2-1. 詳細な検査と評価:問題点を特定する(原因分析)

施術に入る前に、患者様の状態を正確に把握することが最も重要です。

  • 詳細な問診: 股関節の痛みの部位、膝・腰の不調との関連、日常生活での動作(長時間座っているか、立っているか、スポーツ歴)、特に困難な動作(あぐら、靴下を履く、階段を上るなど)を詳しくお伺いします。
  • 歩行分析: 歩く時の足の運び、骨盤の揺れ、膝の向きなどを確認し、股関節の機能低下が歩行に与えている影響を評価します。
  • 可動域テスト(ROMチェック):
    • 内旋/外旋、屈曲/伸展、外転/内転の6方向の動きをチェックし、左右差や制限の度合いを客観的に測定します。
    • 特に、固着しやすい 内旋(内側にねじる動き)の制限度合いを重点的に評価します。
  • 筋力テスト: 股関節を安定させる重要な筋肉(中殿筋など)や、動きに使う筋肉(大腿四頭筋、ハムストリングス)の筋力低下がないかをチェックします。
  • 触診による固着部位の特定: 鼠径部(そけいぶ)、大腿骨大転子周囲、お尻の深部(深層外旋六筋)、腸骨の内側(腸腰筋付着部)などを丁寧に触診し、硬く緊張・癒着している部位を特定します。

(患者様への説明例)

「〇〇様の場合、特に右股関節の内旋の動きが大きく制限されていますね。これは、長時間座っていることでお尻の奥にある筋肉(深層外旋六筋)が常に緊張し、さらに前の筋肉(腸腰筋)が縮んで固まっていることが主な原因と考えられます。この固着をターゲットに『はがし』を行います。」

2-2. 準備段階:周辺の緊張緩和と血流促進(環境整備)

固着部位に直接アプローチする前に、周辺組織の緊張を緩めます。

  • 広範囲の筋膜リリース(表面筋群): まず、大腿部(太もも)の表層にある筋肉(大腿四頭筋、ハムストリングス)や、お尻の大きな筋肉(大殿筋)など、股関節の動きを間接的に制限している広範囲の筋肉に対して、ソフトな手技やストレッチで緊張を緩め、血行を促進します。
  • 温熱療法(必要に応じて): ホットパックなどで股関節周辺を温め、組織の柔軟性を高め、深部の施術効果を高める準備をします。

2-3. 主施術:股関節の固着を解放する「はがし」手技(深層アプローチ)

ここからが「股関節はがし」の核となる手技です。固着の部位や性質に応じて、手技を使い分けます。

Ⅰ. 筋膜と深層筋のリリース(短縮した前側をターゲット)
  • 🫁 腸腰筋リリース:
    • 目的: 股関節を曲げる筋肉で、座位姿勢で最も縮んで固まりやすい**「腸腰筋(大腰筋と腸骨筋)」**の短縮を解放します。
    • 方法: 患者様を仰向け(または横向き)にし、腹部の深層部(お腹の奥)からアプローチして、腸腰筋の付着部を丁寧にリリースしていきます。これはデリケートな手技ですが、固着が取れると屈曲や伸展の動きが劇的に改善します。
  • 🧘‍♂️ 大腿筋膜張筋・縫工筋リリース:
    • 目的: 骨盤の側方から膝にかけて走る筋肉や筋膜の緊張を緩め、股関節の外側の動きの制限を解除します。
    • 方法: 大腿の外側や鼠径部付近の硬くなった筋膜を、適切な圧と方向で引き伸ばすようにリリースします。
Ⅱ. 関節包と深層外旋六筋のリリース(後方の制限をターゲット)
  • 🍑 深層外旋六筋リリース:
    • 目的: 股関節を安定させる重要で、坐骨神経の近くを通る**「梨状筋(りじょうきん)」**を含む、お尻の深部にある小さな筋肉群の緊張と固着を解放します。この固着は、内旋制限や坐骨神経痛のような症状の原因になることがあります。
    • 方法: 患者様をうつ伏せや横向きにし、大転子(太ももの出っ張った骨)の奥にある梨状筋などに、深呼吸に合わせて徐々に圧を加え、緊張を緩めていきます。
  • 🦴 関節包・靭帯のモビリゼーション(関節運動):
    • 目的: 固く縮んだ関節包や靭帯に対して、関節を動かしながら微細な振動や圧を加え、関節内の滑走性を高めます。
    • 方法: 術者が股関節を把握し、内旋、外旋などの動きを極めて小さな範囲(ミクロな動き)で繰り返し行い、関節包内の液体の流れを促し、組織の伸張を図ります。
Ⅲ. 複合的なストレッチ(再獲得)
  • 複合的なスタティックストレッチ: 腸腰筋、大腿四頭筋、梨状筋などを同時に引き伸ばすような、施術者主導のストレッチ(PNFストレッチなど)を行います。解放した可動域を身体に「記憶」させます。

2-4. 調整段階:再評価と安定化(土台の強化)

固着を解放した後、股関節がスムーズに動くようになった状態で、身体の土台を強化します。

  • 再評価: 施術前に行った可動域テストを再度行い、内旋、外旋などの動きが改善したことを患者様ご自身に確認していただきます。
  • インナーマッスルの再教育(エクササイズ): 固着が解放されて動きやすくなった股関節を、正しい位置で支えるためのインナーマッスル(特に中殿筋深部の腹筋群)を活性化させる運動を指導します。
    • 例: 横向きになり、膝を曲げて行う貝殻のような開閉運動(クラムシェル)、片足立ちによるバランス訓練など。
    • 目的: 「緩める(はがし)」だけでなく、「使える(強化)」状態にすることで、効果の持続性を高めます。

3. 患者様への説明とホームケア指導:成功のための二人三脚

施術効果を最大限に引き出し、持続させるためには、患者様のご協力が不可欠です。

3-1. 施術頻度と期間の目安

  • 初期集中期(固着の解放): 最初の2~4週間は、週に1~2回のペースで集中的に施術を行います。この時期は、特に硬く固着した組織を徹底的に「はがし」、関節の可動域を強制的に回復させる段階です。
  • 安定化期(姿勢の習慣化): 可動域が回復してきたら、頻度を週1回から10日~2週間に1回程度に減らします。この時期は、獲得した可動域をインナーマッスルの強化によって安定させ、正しい姿勢を身体に「形状記憶」させる段階です。
  • メンテナンス期: 身体が安定したら、月1回程度のメンテナンスに移行し、日常生活で生じる小さな歪みや固着をリセットしていきます。

3-2. ホームケア指導:日常生活で実践する「はがし」の継続

当院が指導するホームケアは、施術で解放した状態を維持し、再固着を防ぐための「薬」です。

Ⅰ. 縮む筋肉のストレッチ(主に前側)

長時間の座位や前傾姿勢で縮みやすい筋肉を毎日伸ばします。

  • 腸腰筋ストレッチ(ランジ姿勢): 膝立ちのランジの姿勢で骨盤を前に押し出し、股関節の前側をしっかりと伸ばします。デスクワークの休憩中に必ず行うことを推奨します。
  • 大腿四頭筋ストレッチ: 椅子に座って片足を引きつけたり、うつ伏せで踵をお尻に近づけたりして、太ももの前側を伸ばします。
Ⅱ. 固まる筋肉のリリース(主に後側と外側)

お尻の深部にある筋肉や、太ももの外側の固着を防ぐセルフケアです。

  • 梨状筋・中殿筋のセルフリリース(テニスボール・フォームローラー):
    • 硬めのボール(テニスボールなど)をお尻の固い部分に当て、体重をかけながら数分間ゆっくりと圧迫します。固着部位のピンポイントなリリースに非常に有効です。
  • 太もも外側の筋膜リリース(フォームローラー): フォームローラーを太ももの外側に当て、ゆっくりと転がすことで、筋膜の癒着を剥がします。
Ⅲ. インナーマッスルの強化(安定化)

解放した股関節を正しい位置で使うための簡単なトレーニングです。

  • クラムシェル(貝殻運動): 横向きになり、膝を曲げた状態で、膝を外側に開く運動(股関節の外旋)を行います。股関節の安定に最も重要な中殿筋を活性化させます。
  • ドローイン(腹部インナーマッスル): 仰向けになり、息を吐きながらお腹を薄くへこませた状態をキープします。股関節と連動する腹部の深層筋(腹横筋)を鍛え、骨盤の安定性を高めます。

3-3. 日常生活の姿勢チェックリスト(生活習慣の改善)

股関節の固着は、日々の小さな習慣が原因です。以下の点にご注意ください。

シーン悪い習慣改善ポイント
座り方❌ 浅く座る、足を組む、横座りをする、背中が丸まる✅ 椅子に深く座り、座骨を立てて座る(骨盤がニュートラルに)、両足を地面につける、30分に一度は立ち上がる。
立ち方❌ 片足に体重をかける(休めの姿勢)、反り腰で立つ✅ 両足均等に体重をかける、お腹を軽くへこませる(ドローイン)、壁に後頭部、背中、お尻、踵をつけて立つ練習をする。
睡眠❌ うつ伏せで寝る、身体を丸めてエビのように寝る✅ 仰向けを基本とし、膝の下にクッションを入れる。横向きの場合は、膝の間に枕を挟んで骨盤の傾きを防ぐ。
荷物❌ 重い荷物をいつも同じ肩にかける(ショルダーバッグ)✅ リュックサックや軽い荷物を選ぶ、左右均等に持つことを意識する。

4. まとめ:股関節はがしがもたらす未来

「股関節はがし」は、一時的な痛みの治療ではなく、「身体の土台を再構築する」プロセスです。土台である股関節の機能が回復することで、その上に乗る骨盤、背骨、首の位置が整い、結果として全身の不調が改善されます。

施術によって動きの「解放」を感じていただいたら、今度は患者様ご自身の「意識」と「継続的な努力」でそれを「定着」させていくことが重要です。

健康的で疲れにくい身体、そして軽快な動きを取り戻すために、私たちと一緒にこのプログラムに取り組んでいきましょう。