はり灸治療と【ツボ】について

鍼灸治療について

東洋医学に基づく、体の自然治癒力を高めることを目的とした治療法です。

鍼灸治療の基本

鍼(はり)と灸(きゅう)という2つの方法で、全身にある 経穴(けいけつ)、いわゆる「ツボ」を刺激します。

  • 鍼(はり)治療:
    • 非常に細い専用の鍼をツボに刺入、または接触させ、筋肉や神経に微弱な刺激を与えます。
    • 痛みはほとんど感じないことが多いです。
  • 灸(きゅう)治療:
    • もぐさを燃やしてツボに熱を加え、温熱刺激を与えます。
    • 血行を促進し、体を内側から温める効果が期待できます。

期待される主な効果

鍼灸は、特定の症状だけでなく、体全体のバランスを整えることに重点を置いています。

  1. 痛みの軽減: 肩こり、腰痛、神経痛、関節の痛みなどに対して、血行促進や鎮痛効果(エンドルフィンなどの物質放出)が期待されます。
  2. 自律神経の調整: 鍼刺激が自律神経に働きかけ、リラックス効果(副交感神経優位)をもたらし、自律神経失調症や不眠、ストレスケアに役立つとされています。
  3. 体質改善: 冷え性、むくみ、便秘、生理痛、更年期障害など、慢性的な体調不良の改善にも用いられます。
  4. 自然治癒力の向上: 刺激を通じて、身体が本来持っている「治ろうとする力」を引き出し、病気や怪我の回復を促します。

知っておきたいこと

  • 痛くない?: 使用される鍼は非常に細く、注射針とは異なるため、痛みを感じにくいのが特徴です。
  • 国家資格: 鍼灸治療を行うのは、「はり師」「きゅう師」という国家資格を持った専門家です。

鍼治療の仕組み(なぜ効くのか?)

鍼の刺激が身体にもたらす効果は、東洋医学的な考えと、現代科学的なメカニズムの両方から説明されています。

1. 科学的なメカニズム

  • 鎮痛物質の放出: 鍼の刺激により、脳内でエンドルフィンなどの天然の鎮痛物質(内因性オピオイド)が放出され、痛みを抑制します。
  • 血流・代謝の改善: 鍼が筋肉や組織に微小な刺激を与えることで、その部分に血液が集まり、血管が拡張します。これにより血行が促進され、老廃物の排出や酸素・栄養の供給がスムーズになり、筋肉の緊張が緩和されます。
  • 自律神経の調整: 鍼刺激が自律神経系に働きかけ、緊張状態にある交感神経からリラックス状態の副交感神経への切り替えを促し、内臓の働きやホルモンバランスを整えます。

2. 東洋医学的な考え

  • 体の中を流れる「気(エネルギー)・血(血液)・水(体液)」のバランスが崩れることで不調が起こると考えられています。
  • 経穴(ツボ)への鍼刺激によって、これらの流れ(経絡と呼ばれる通り道

)をスムーズにし、「気・血・水」の平衡を取り戻すことで、身体が本来持つ自然治癒力を活性化させます。

痛みについて

「鍼を刺す」と聞くと痛そうなイメージがありますが、鍼灸で使う鍼は髪の毛ほどの細さ(直径0.10mm〜0.30mm程度)で、注射針とは異なり先端が丸みを帯びています。このため、訓練された鍼灸師による施術では、ほとんど痛みを感じません。

しかし、凝り固まった筋肉などに鍼が当たると、「ズーン」とするような独特な鈍い感覚(これを「響き」と呼ぶことがあります)を感じることがありますが、これは鍼が効いているサインの一つです。


お灸治療の基本

灸治療は、主に「艾(もぐさ)」を燃やしたときの温熱刺激を利用して、体表の特定の点(経穴・ツボ)に熱刺激を与える施術法です。

  • 原料: 艾(もぐさ)は、ヨモギの葉の裏にある産毛を乾燥・精製したものです。
  • 刺激の目的: 温熱と、モグサに含まれる芳香成分(シネオールなど)の薬効を組み合わせて、身体の機能調整を図ります。

お灸がもたらす効果の仕組み

灸治療は、心地よい温かさから、免疫力向上まで幅広い効果が期待されています。

  1. 血行促進(温熱作用):
    • 熱刺激により毛細血管が広がり、血流が増加します。
    • これにより、滞っていた血液が流れ、筋肉の緊張緩和、老廃物の排出促進、冷えの改善に直結します。
  2. 免疫力の活性化:
    • 熱刺激によって皮膚や組織に微小な変化が起こると、身体はそれを修復しようと反応し、血液中の白血球が増加し活性化することがわかっています。
    • この作用が、自然治癒力や免疫力を高め、病気になりにくい体づくりをサポートします。
  3. 自律神経の調整とリラックス:
    • 心地よい温熱刺激は、副交感神経を優位にし、心拍や呼吸を落ち着かせます。
    • モグサの独特な香りにもリラックス効果(アロマテラピー作用)があり、ストレスや不眠、自律神経の乱れの改善が期待されます。

種類と熱さ

熱の与え方によって様々な種類があります。

種類特徴熱さ・跡
直接灸米粒くらいのモグサを直接皮膚に置いて燃やす。熱刺激が強く、小さいお灸の跡が残る場合がある。
間接灸皮膚とモグサの間に、台座、生姜、味噌などを挟む。熱さがマイルドで、跡が残らないものが主流。(市販の「せんねん灸」もこの一種です)

熱さは施術者が調整しますが、一般的に「心地よい温かさ」が最も効果的とされています。「熱すぎる」と感じたら、すぐに伝えて大丈夫です。

一般的に「ツボ」と呼ばれていますが、鍼灸などの専門用語では「経穴(けいけつ)」と呼びます。

ツボ(経穴)の役割

ツボを一言でいうと、「体内の異常を体表に知らせる反応点であり、同時に体外から調整を加えることのできる治療ポイント」です。

1. 東洋医学的な視点:気の通り道

  • 経絡(けいらく): 東洋医学では、生命エネルギーである「気(き)」や「血(けつ)」が全身を巡っていると考えられています。この流れ道が「経絡」です。
  • 経穴(ツボ): ツボは、その経絡上に点在する「気の出入り口」のようなポイントです。
  • 体内の臓器や器官に不調が起こると、対応するツボに「硬さ」「痛み(圧痛)」「しこり」といった異常な反応が現れます。ここに鍼や灸で刺激を与えることで、滞った気血の流れを整え、体調を改善します。

2. 現代医学的な視点:神経の交差点

現代の研究では、ツボの多くが、

  • 神経や血管が集中している場所
  • 筋肉と骨の境目(筋膜の接合部)
  • 特定の臓器と関連する反射点(トリガーポイント)

と一致することが分かっています。ツボへの刺激は、これらの神経や筋組織に作用し、脳や自律神経に影響を与えて全身の機能を調整すると考えられています。

ツボの数

WHO(世界保健機関)によって、主要なツボ(正穴)として約360箇所が国際的に統一されています。しかし、その他にも無数のツボや、症状に応じて現れる反応点が存在します。

肩こりの主な原因である「筋肉の緊張と血行不良」に、鍼と灸の刺激が直接アプローチできるからです。

鍼灸が肩こりに効くメカニズム

鍼灸治療がガチガチの肩こりに効果的とされる理由は、主に以下の3点です。

治療法効果(メカニズム)説明
鍼(はり)筋緊張の緩和 & 血行促進凝り固まった筋肉の最も硬い部分(トリガーポイント)に鍼を刺すことで、その周囲の緊張が緩み、血管が広がり血流が改善します。
鍼(はり)鎮痛効果鍼の刺激が脳に伝わり、痛みを抑制する物質(エンドルフィンなど)が放出されることで、痛みが緩和されます。
灸(きゅう)温熱作用 & 血行促進もぐさの温熱がツボから体の深部に伝わり、周辺の血管を拡張させ、冷えによる血行不良を根本から改善します。
鍼灸共通自律神経の調整特に慢性的な肩こりはストレスや自律神経の乱れからくることが多いため、鍼灸でリラックス効果を高め、体の内側から緊張を緩めます。

治療のポイント

  • 対象: 肩や首の筋肉(僧帽筋、肩甲挙筋など)の硬い部分(こり)や、関連するツボ(例:肩井、合谷など)を狙って施術が行われます。
  • メリット: 薬に頼らず、身体の自然な回復力を高めるため、副作用のリスクが少ないとされています。

慢性的な肩こりでお悩みの場合、鍼灸治療は痛みの軽減と体質改善の両面から効果が期待できます。